研究課題/領域番号 |
22730092
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
水津 太郎 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (00433730)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 物権債権峻別 / 物概念 / 価値追跡 |
研究概要 |
本年度は次の諸点の考察をおこなった。第1に、物権と債権の「外的」峻別の問題との関連で、法典の形式・編別を決定する諸要素とそれらの相互の関連を明らかにするために、対照的な2つの法典のスタイル――プロイセン一般ラント法とドイツ民法典――を、各々の立法技術を支える思想はなにか、という観点から対比検討した。第2は、物権と債権の概念の問題である。対物権・絶対権としての物権、対人権・相対権としての債権という定式を解体し、対物権・対人権と、絶対権・相対権のカテゴリーに分けてその性格と構造を分析するとともに、この作業を物権債権峻別の「限界」といわれている諸問題と関連づけ、各問題がどの意味で「限界」なのかを吟味し、問題の所在を明確にしようと試みた。第3は、価値追跡論の研究である。物権債権峻別を克服する有力な理論としてよく知られている同説につき、ドイツ・オーストリアでの近時の評価、議論状況を考察し、問題点や残された課題を析出検討した。合わせて、価値追跡論を支えるもっとも重要な実定的制度である、代償的取戻権につき、構造と評価の両面から基本的な検討をおこなった。この制度については先行研究が少なく、より立ち入った考察が必要とみられる。第4に、物権と債権の譲渡ルールの検討の一環として、ドイツ法における将来の動産と債権の譲渡の法的構成、およびそこから生じる諸問題の解決の仕方を、執行倒産の局面まで含めて考察した。第5は、「無体物」の私法的保護に関する研究である。「無体物」には雑多なものが寄せ集められているため、類型的検討が必要である。そこで、まず情報の問題につき、予備的作業としてドイツにおける近時の動向をフォローした。とくにツェヒの議論は、初年度に考察したポイケルトの構想とするどく衝突する部分があり、注目に値する。次に、古典的無体物であるエネルギーについても、情報との性質の差異に留意しながら考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度、平成23年度における作業は、物権と債権の峻別についておもに、法典制定期までの議論・立法の経緯の多面的分析と、制定後の展開に関する概念的・総論的検討に向けられていた。本年度はこれらの作業からえられた問題意識をもとに、いくつかの総論的な問題にくわえて、関連する多くの諸問題について具体的な考察をおこなうことで、各々の問題の構造を把握するとともに、その克服の方向を展望することができた。パズルのピースは埋まりつつあるように感じている。 しかしながら、他面において、これらの具体的な検討のなかには、研究の当初から予期していたもののほかに、研究を進める途上で必要とされたため取り組まざるをえなかったものも含まれている。そこで、問題のうちのいくつかに関しては、各々は主題と密接に関連しているものの、問題相互間、横のつながりがみえにくくなってきていることは否めない。この点は次年度・最終年度の考察で調整する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度・最終年度は、物権債権峻別の意義と限界について、残された各論的な諸問題を追究するとともに、総合的な分析と検討をおこなう。 前者の際には、価値追跡論と代償的取戻権、「無体物」論の研究が中心となる。価値追跡論については債権者平等原則との関係、代償的取戻権に関しては客体の特定性の問題を検討し、「無体物」論においては無体物と呼ばれる財の類型化の視点の獲得に努める。しかしながら、次年度は最終年度である以上、後者の作業、すなわち研究の総括が重要な位置をしめることになる。とりわけ本研究では、「現在までの達成度」で述べたように、研究を進めるにつれ問題が拡散・分岐しつつあるため、総合的な考察には十分な労力と時間をさかなければならない。 具体的には、おそくとも後期のはじめまでには各論的作業を終了させ、残りの時間は研究の総括に集中する。その際には、峻別の基礎にある原理、論理の析出と構成を前提として、これらとの関連においてもろもろの具体的な問題を秩序づけることを試みる。
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