本年度の成果は次のとおりである。第1に、法典悲観主義とこれをめぐる議論を分析・検討する論文を公刊した。これは、物権と債権の「外的」峻別の問題と関連するものである。第2に、物権と債権の概念と、両区別の基礎にある評価について、研究会で報告をおこなった。この問題と接続して、第3に、物概念の拡張の問題を取り上げた。人と物、相対権と絶対権、有体物と行為・権利・情報の区別は、現在でもなお合理性を有しているところ、現代的ないし新しい問題についても、既存の概念や体系との関係を一つひとつ精査・確定しつつ対処すべきというスタンスに基づき検討を進めた。第4に、ドイツにおける将来動産・将来債権の譲渡担保のルールを横断的に比較し、両者の異同とその根拠を明らかにする論文を執筆した。そのほか、将来債権譲渡と譲渡禁止特約の関係を検討するなかで、いわゆる物権的効力説には債権の譲渡性を制限するものと、債権者の処分権を制限するものがあることを示した。第5に、物権から債権への格下げ問題との関連で、代償的取戻権の研究に取り組み、そのうちの基礎理論につき論文を公刊した。代償的取戻権は、「債権」に物権的権利・取戻権を付与するものであり、峻別論との関係では限界の問題に位置づけられる。代償的取戻権は物権的帰属には触れずに、責任的帰属のみを、しかも執行法の枠内で矯正するものである。これとの対比において、第6に、物上代位の研究をおこなった。物上代位も同じく物権から債権への格下げ問題に対処するものであるが、物権的帰属そのものを、平時実体法のレベルにおいても変動させる点に特色がある。そうすると、物上代位と代償的取戻権の関係、両者の使い分けに関する現行法体系の評価が問題となる。この問いに関する基本的な考え方を学会で報告した。最後に、これまでのすべての成果を、物権債権峻別論の「意義」と「限界」という視点からあらためて整理し直した。
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