今年度の課題は、里親養育を受ける子どもの福祉の観点から、里親にどのような権利義務が必要であるか、またそうした権利義務を担保する法的・社会的システムがどのようなものであるのかを明らかにすることであった。 里親がその役割を適切に遂行しながら、子どもの養育を安定的に、子どもの福祉に沿って実施できるようにすることが里親制度の基本的な目標であるとすれば、この目標が実現できなかった事例を精査することが制度の改善にとって重要である。 そこで、日本の里親養育の世界で実際に発生している紛争や問題を把握するために、里親養育に関連する事例を収集し、分析を行った。分析の対象とした事例は、たとえば、子どもの自宅復帰をめぐる児童相談所と里親の紛争や、実親による子どもの引き渡し請求に対抗してなされる里親の監護権者指定や養子縁組の申立、里親による子どもの虐待事件などであった。事例分析は、既に実施したヒアリング調査において見聞した事案に加えて、里親に関する民法・児童福祉法・刑法の判例も用いて行った。 これらの事例の発生状況と、現行法上の問題解決のあり方を把握した上で、里親の役割遂行の観点から見て、里親にどのような権利義務が保障されれば、子どもの福祉を害する状況が回避されやすくなるのか、あるいは里親養育をめぐって発生する紛争を、子どものの福祉の観点からより適切に解決できるようになるのか、児童福祉法と民法において里親の権利義務がどのように規定されうるか、また、その権利義務を担保するための法的・社会的システムとしてどのようなものが考えられるか、といったことについて検討を行った。
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