中小企業金融においては、わが国でも在庫商品や売掛債権等の流動資産を担保とした融資が活用されつつある(いわゆる日本版ABL)。この流動資産の担保化には、資金調達主体たる中小企業のキャッシュフローを生み出す能力に相当する営業活動が目的財産の価値の評価に深く関与しているが、一方で債務者の営業活動は担保権者にとって予期せぬリスク(事業の低調に際し債務者が新たな資金調達を行いハイリスクの事業への拡張を行うリスクや、資金調達による担保価値の希釈などが知られる。)をもたらす可能性がある。このようなリスクへの対処として行われているのが、事業包括担保であるが、事業包括担保はそれのみで機能するのではなく、債務者の事業活動を監視のうえ、債務者が後発の担保借入れや財産の不当な処分が観察された場合に、期限の利益を喪失させる効力をもつコベナンツを伴わせることによって運用されている。ところが、この効力は、非占有担保は債務者の経済活動の自由を保障するという民法理論や、債務不履行や債務者の破産以外では担保物件の滅失毅損と結び付けて考えられてきた期限利益喪失の概念に根本的な修正を迫るものである。かかる修正の正当化要素が、担保権者の予期するキャッシュフローの価値の保護にあるとの仮説のもと、本年度の研究では、米国における議論の現状把握に加え、約1世紀にわたる制度的な変遷をフォローした。その結果、非占有担保における担保権者のキャッシュフローの捉え方には2種類が存在し、それぞれに対応する取引類型の存在が明らかになった。申請段階で予定した当研究の後半に相当する次年度の研究においてその詳細についてなお研究を要するものの、債務不履行概念とキャッシュフローを評価に含めた非占有担保権の相関関係を解明する上で必要な視座の確定としての意義がある。
|