今期の研究は、全体として、履行拒絶と評価されうる事柄が日本においてこれまでどう扱われてきたかを明らかにすることに向けられた。その中心は、受領遅滞や受領拒絶の判例分析であり、そこでは裁判所が「債務を履行しない意思が明確な場合」か否かを何から判断しているのかが追究された(なお、今期中に判断基準を明らかにすることはできなかったため、研究を継続し、今後は、類型論的アプローチから〔諸〕基準の抽出〔と、場合によってはそれぞれの射程の見極め〕を行う)。この研究を基調にしつつ、債権法改正との関連でいくつかの報告が行われた。 1.2010年5月22日、早稲田大学にて行われた国際取引法研究会において「契約危殆時における契約関係の維持と切断-『債権法改正の基本方針』における履行拒絶の取扱いの含意-」と題する報告を行った。そこでは、債権法改正の基本方針における履行拒絶を原因とする履行に代わる損害賠償の「確定的」という要件の判断基準の具体化を独法、英米法等との比較を通じて試みた。 2.2010年10月21日及び2011年1月27日、明治大学にて行われた「民法の改正を考える」研究会において、債権法改正との関連で、(1)受領遅滞、(2)履行の提供、受領拒絶(とりわけ「受領拒絶の意思明確な場合に」口頭の提供がなくとも債務者が免責されるというルールの明文化の可否やそれを支える原理)等につき報告を行った。この成果は円谷峻(編)『民法改正案の検討』(成文堂)に収められる予定である。 3.2011年3月3日、ベルリン自由大学にて"Was ist die bestimmte Erfuellungsverweigerung?"と題しドイツ語で報告を行った。日本における履行拒絶の従来からの取扱いと債権法改正における取扱いの変化、履行拒絶の段階性という特徴、「確定性」の審査の手法のあり方につき、報告と提案を行った。
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