本年度は、まず、前研究課題(課題番号20730080)から引き続き研究を継続し、本研究課題の対象でもある「企業結合における親会社株主保護」のあり方に関して、近時の議論をフォロー、アップデートし、書籍にまとめて公刊した(拙稿『「グループ経営」の義務と責任』(商事法務))。近時、会社法改正論議が高まり、法制審議会会社法部会が組織されるに至っているが、同部会の論議の対象の中には、多重代表訴訟の導入の是非など研究代表者の継続的な研究課題と密接に関連する論点が盛り込まれていることから、時宜に適った刊行を行うべく、公刊作業を優先的に進めた。 また、わが国の資本市場法のうち、実質的意義の会社法として現に機能していると考えられる、金融商品取引所の策定する上場規程等の自主ルールについて、それによる規律の意義と限界につき、とりわけ東京証券取引所の定める「独立役員」の義務付けに係る上場規程を中心に分析を行った。もっとも、同規程が果たす実質的意義の会社法としての機能は、(形式的意義の)会社法の改正次第で大きく変わり得るものである一方、上記分析はなお各論のレベルにとどまるものであることから、立法の指針ともなるべきより高次の検討を行うことが次年度以降の課題である。 さらに、次年度以降につながる研究として、ドイツ資本市場法の研究に着手している。手始めとして、ドイツ有価証券取得・買収法(WpUG)が定めている、公開買付けによる支配権取得後の締出し手続(WpUG39a条以下)における「相当の補償」の意義を、他の制度(公開買付け時の「相当の対価」の意義)との比較や憲法上の財産権の保障との関係に関する論議など参照しつつ調査している。これらのドイツ(およびEU)において蓄積された議論を参照しつつ、わが国における少数株主締出し時における少数株主保護制度のあり方について検討を進める予定である。
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