本年度前半においては、進行中であった法制審議会会社法制部会(以下「会社法制部会」という)における改正論議に注目しながら、前年度において示した結合企業法制に係る立法論的課題のうち、特に子会社少数株主保護の問題について検討した。子会社少数株主保護の問題は積年の会社法的重要課題であったにも関わらず、結局会社法制部会の検討の結果実体的な規律を設ける提案は見送られたが、研究代表者の課題意識からは、従来の学界の理論的関心の高さにもかかわらず、実務上問題となる事例を想定した具体的な検討がこれまで十分なされてこなかった点が立法提案見送りの一つの要因となったように思われたことから、検討の素材をより具体的な問題に絞る形で研究を行った。具体的には、近時わが国の企業グループにおいて数多く採用されているキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を素材として、主としてドイツ法におけるCMSを巡る会社法上の議論を比較法資料として用いて検討を行った。具体的な成果として次年度(平成25年度)中に論文を公表することを予定している。 本研究の主要な検討課題の一つは、資本市場法を通じて企業結合に係る会社法的規律を行うことの是非であるが、本年度後半においては、かかる規律手法の舞台となる資本市場そのものに係る規律につき、主としてドイツを中心としたヨーロッパ諸国(およびその基礎となるEU)の法的規律に関する調査を行った。ヨーロッパにおいては、特に投資家間の平等に大きな価値を置く法制となっているように見受けられ、これが少数株主保護メカニズムの一つを構成しているとの感触を得た。なお、この調査の成果の一部として、平成24年12月開催の大証金融商品取引法研究会において、「ドイツの内部者取引規制―EU法を踏まえて―」と題する報告を行った。
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