研究課題/領域番号 |
22730098
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
野口 夕子 近畿大学, 法学部, 教授 (40314794)
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キーワード | 商法 / 保険法 / 保険契約 / 損害保険 / 海上保険 / 損害防止義務 / 損害防止費用負担義務 |
研究概要 |
わが国内航貨物海上保険では、現在、内航貨物海上保険普通保険約款23条をもって、保険者が損害防止費用を負担している。同約款23条2項では更に、損害防止費用が他の填補額と合算して保険金額を超過した場合にも、保険者がその全てを負担する旨約定し、損害防止費用負担額に限度額を設けていない。これは、改正前商法660条1項但書は元より、かかる規定を基本的に踏襲した保険法23条1項2号と、その内容を同じくするものである。 船舶保険においても、199O年の改定をもって、船舶保険普通保険約款9条2項により内航貨物海上保険と同様、保険者が損害防止費用を填補することとなった。かかる改正点につき、船舶保険普通保険約款改定理由書には、船舶保険普通保険「約款では、旧約款の救助費を損害防止費用と規定するとともに保険契約者または被保険者に損害防止義務を課した以上、その義務の履行のために要した必要・有益な費用を保険者としててん補するのは当然であるとの損害保険一般の考えに基づき、特約がなければ損害防止費用をてん補しないという旧約款第15条第2項の規定を削除し、損害防止費用をてん補することとした」と明記されている。船舶保険では、同改定を経て今日、損害防止費用は、船舶保険普通保険約款g条2項をもって、他の填補額と別途算出され、保険金額を限度として保険者に填補されていることは、拙稿「損害防止費用負担義務の制度的淵源」近畿大学法学55巻2号・4号で既に明らかにした通りである。 当該年度は、かかる事前研究を踏まえ、平成23年度科学研究費補助金交付申請書中の「本年度の研究実施計画」に既述するように、船舶保険において上述のような改定がなされるに至った経緯の詳細を解明しようと試みた。また平成22年度及び本年度(平成23年度)における国内研究を踏まえ、次年度に予定している英国海上保険法制にかかる現地調査に備え、資料収集を中心に、専門家との意見交換など予備調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終年度に研究成果を論文として公表するという当初予定に照らし、研究計画において想定していた各種資料収集、ならびにそれを踏まえた考察については、前記「9.研究実績の概要」に示す通り、順調な進捗状況にある。ただ、現段階において保険約款改正議事録の入手が極めて困難なことが判明しており、この点につき、改正作業にあたったメンバーに直接インタビューする等、別途方法をとらなければならないことが予想される。それゆえ、達成度「(2)おおむね順調に進展している」を選択することが妥当と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
前記「11.現在までの達成度」で示したように、研究計画において当初予定していた保険約款改正議事録の入手が現段階では極めて困難であるが、本研究に当該議事録は必要不可欠であり、したがって代替手段としてかかる改正に携わった関係者への直接インタビュー、ならびに関連資料の収集および考察に努めていきたい。と同時に、既に入手している各約款改定にかかる文献・資料を渉猟することにより、損害防止費用については保険者が負担する旨の約定のその根拠を解明していく。そのうえで、かかる約定に英国海上保険法制が如何なる影響を与えたのかを明らかにすべく、1906年英国海上保険法を中心として、かかる法制の歴史的変遷を追う。
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