本研究は、三角関係型不当利得に関する英米独仏の判例・学説の動向を比較することを手法として、個別具体的な紛争解決の基準たりうる類型化を形成するための視座を獲得することを目的とするものである。平成22年度は、ドイツ法を中心に資料の整理を行った。また、それと並行してヨーロッパ全体の動向を知るべく、『ヨーロッパ不当利得法原則』の分析を進め、関連する英米の文献の整理も行っている。 その結果、まず、三角関係型不当利得における当事者決定問題に影響を与える基礎事情について、ドイツでは、原因関係の設定に求める見解が有力であったが、近時財産処分に求める見解が少なからず現れていることが分かった。さらに、判例の分析により、これが一見有力説に従いつつも、具体的な利益調整においてはそれに反する考慮がなされていることが分かった。その一方で、『ヨーロッパ不当利得法原則』でも、注釈部分ではドイツの有力説に近い説明が加えられているものの、条文は反対説からも説明ができる形式となっている。これら知見から、三角関係型では、契約の無効・取消しに基づく清算が問題となっているものの、そのまま契約法の原理が不当利得返還関係の決定に作用するわけではないということが示唆される。このような示唆は、我が国における従来の類型論では、契約の清算において、不当利得の場面でも原則として契約法の原理が妥当すると解されていることから、これに対して再考を促すものとして重要であると考えられる。 もっとも、全ての文献を分析できたわけではないので、次年度以降も引き続き研究をする必要がある。
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