本研究は、三角関係型不当利得に関する英米独仏の判例・学説の動向を比較することを手法として、個別具体的な紛争解決の基準たりうる類型化を形成するための視座を獲得することを目的とするものである。平成23年度は、まず前半において、これまでの成果を日本私法学会第75回大会にて報告すべく、これまで分析した資料の再整理を行い、報告の準備を行った。また、後半では、報告の成果を雑誌「私法」および香川大学法学部記念論集にて公表すべく執筆をし、並行して関連する英米の文献の整理も行った。 その結果、まず、これまでの成果を上記大会における個別報告において、報告を行った。次に、ドイツの裁判実務においては、指図が有効性を欠く場合について、それでもなお指図者に被指図者の出捐を帰責することにより権利外観法理を用いて受領者の保護を図るという法理が形成され、一般論としては指図が有効な場合と同じく指図の無因性による処理が認められるに至った。しかし、個別には、受領者が指図者に対して原因関係上有効な債権(対価関係)を有していることが、受領者の信頼を認めるうえで重要とされている裁判例も散見され、単純に指図の無因性によってではなく、各当事者の指図レベルおよび原因関係レベルにおける利益状況を総合的に判断して受領者の保護を決していることが分かった。また、英米法においても、対価関係が有効なことが受領者保護の一つの要件として主張されており、両者の近接性がうかがわれる。これについては、次年度以降も引き続き研究する必要がある。
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