本研究は、三角関係型不当利得に関する英米独仏の判例・学説の動向を比較することを手法として、個別具体的な紛争解決の基準たりうる類型化を形成するための視座を獲得することを目的とするものである。平成24年度は、まず前半において、昨年度来分析を行っていたドイツ振込法改正について、ドイツにおいて議論が一定程度出揃ったと考え、その成果を公表すべく論文を執筆した。後半では、引き続き英米の文献の整理も行い、とくに英法の分析の前提としてヨーロッパ不当利得法原則の分析を行った。 その結果、まずドイツ法については、拙稿「三角関係型不当利得とドイツ民法675u条」において、旧法下で判例多数説が、指図が有効性を欠く場合を二分して処理すべきと解していたところ、振込法改正に際してはとくに議論なく一元的なルールが創設されたため、旧法下の法理論がなお妥当すると主張する立場と立法的解決が図られたと主張する立場が鋭く対立していることを示し、なお今後の動向を注意深く見守る必要があることを論じた。 次に、ヨーロッパ不当利得法原則においては、この問題は、因果関係(帰因性、4:101条)の中で論じられるのではなく、第三者に対する債務の履行(2:102条)で論じられている。そこでは、契約を締結した者はその有効性を問わずに相手方の無資力リスクを負担すべきことを原則とし、支払人の受領者に対する直接請求を原則として否定する内容のルールが提案された。一方で受領者の保護の根拠を対価関係において弁済の効力が生じていることも根拠とされており、両者の関係をどのように解すべきかがあいまいになっていることを確認した。これについては、次年度以降も不当利得法リステイトメントと合わせて、引き続き研究する必要がある。
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