国際的人権保障の文脈では、長らく、「性」あるいは「性別」にもとづく差別撤廃の取り組みとして、女性差別撤廃条約を中心に研究が展開されてきた。本研究では、ジェンダー論・セクシュアリティ論およびクィア理論の展開を踏まえ、「性」あるいは「性別」という文言の意味射程について、国際人権法の観点から分析を進めた。 本年度の成果は、以下の3点である。 (1)条約の解釈実践の分析 国際人権自由権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約の履行監視機関の実践を分析し、性的指向・性自認に関連する議論の位置づけを検証した。結果、人権の交差性(intersectionality)またはカテゴリーとしての被傷性(vulnerability)の文脈に位置づけられる傾向にあり、「性」「性別」という文言の解釈には大きく影響を与えていないことが明らかとなった。 (2)「性的指向」「性自認」に関する文書の分析 国際的な人権諸機関において、近年増加している「性的指向」「性自認」への言及を分析した。女性差別撤廃条約の一般勧告28や国連総会決議についてロビイイング活動をしてきた国際NGOからの聞き取りを行い、性に関する国際的な人権保障の障壁とその克服過程を検証した。 (3)研究成果の刊行 性的指向や性自認に関連する判例解説を集めた編著書(『性的マイノリティ判例解説』)を刊行した。また、性同一性障害者の家族形成と人権、ならびに国連総会における性的指向と性自認に関する人権決議についての論文を刊行した。
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