平成22年度の研究計画は、1.福祉国家再編の新たな対抗軸を「再商品化」と「脱商品化」の間に設定する分析枠組みを構築し、2.階級を横断したアクター間の対抗と政策類型を特定し、3.事例として英仏の非営利団体の動向を調査することにあった。1.分析枠組みの構築。マルクス、ポラニー、新しい社会運動論、レギュラシオン理論、エスピン・アンデルセンらにおける「商品化」「脱商品化」概念を検討したうえで、「脱商品化」を物質的水準と規範的水準の二つにまたがる概念として把握しなおし、今日の「再商品化」と「脱商品化」の対抗軸を分析する枠組みを構築しようと試みた(→雑誌論文および学会報告「脱商品化とシティズンシップ」)。この成果は宮本太郎編「働く-雇用と社会保障の政治学」(風行社、2011年刊行予定)所収の論文「労働と連帯」においても公表される予定である。2.アクターと政策類型。上記の作業の過程で、再編期の新たなアクター間の対抗を分析するためには、ヨーロッパ統合にともなう福祉の境界線の変容と歴史的な社会的亀裂の浮上を考慮に入れる必要があると考えるようになった。そこでヨーロッパ市場統合による国内福祉制度の変化を比較する研究動向を調査し、フランスの年金制度・公的扶助制度の変容(付加年金改革と私的年金の導入、画一的な公的扶助から地域コミュニティを基礎とした包摂政策への転換)を、イギリス、ドイツと比較する研究を進めた。研究動向の整理として雑誌論文「社会的ヨーロッパと新しい福祉政治」を公表した。この成果の一部は平成24年度比較政治学会でも報告する予定である。3.ヨーロッパ統合による国内福祉制度の変容を主に調査したため、非営利団体の調査は平成23年度にまわすこととした。
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