本年度は「取引費用の数理モデル」と題する学術論文を『法学論叢』に第168巻第1号から第5号にかけて、5回にわたって掲載した。その内容は以下の通りである。まず、取引費用理論の成立と発展に大きく貢献したコース・ウィリアムソン・ノースの理論について概説を行った。その後、取引費用経済学における実証研究を垂直統合・事業部制組織・垂直的な組織間の相互関係・水平的な組織間の相互関係・経済史研究の5つに分け、各研究の独立変数と従属変数およびキー・ファインディングを整理するとともに、その成果について検討を加えた。続いて、公共政策・議会・行政組織などの政治学の各分野に取引費用理論を応用した実証研究について考察した。その際、取引費用経済学の整理と同様に、各研究の独立変数と従属変数およびキー・ファインディングを要約し、その成果を分析した。最後に、拙稿『民営化の取引費用政治学』における企業組織の制度設計(第5章)やエージェンシー選択の制度設計(第4章)を、数理モデルを用いて分析した。これによって、交付申請書に記載した「研究目的」の1つである「取引費用モデル」の適用性を検証することができた。また、「取引費用モデル」の数理モデル化にもあわせて取り組むことにより、民営化にともなう費用や効用を定量的に測定・予測するための手掛かりが得られた。
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