本研究は、自生的に生じてきた市民の諸活動をめぐる「制度化(法制化)」事例を分析し、「市民社会の論理」と「行政の論理」の相克と浸透可能性を論じた上で、「公共空間における公共性の内実に市民的公共性を浸透させるための条件」を明らかにすることを目的としている。 研究一年目の平成22年度は、(1)移送サービスをめぐる「法制度の壁」.を論じた論文と(2)交通基本法に関する論文を完成させ、公表した。 前者は、「福祉有償運送をめぐる法政策論的考察~運営協議会問題を中心に~」と題した論文であり、『自治総研』2010年12月号に掲載された。この論文では、「公共空間における公共性の内実に市民的公共性を浸透させるための条件」としての「市民による法利用」に可能性を見出し、法解釈や制度改革を通じて、「法制度の壁」を突破する方途を論じた。当該論文は、セオドア・ローウィの「依法的民主主義」論に基づく研究であり、また、公法学と行政学とを融合させている点に学問的な価値と独自性を有している。隣接学問である行政法学にとっても示唆を与えるものとなっていることから、幾人かの行政法学者からも高い評価をいただいた。 後者は、「交通基本法のあり方と地方分権~『移動権』を実質化するために何が求められるのか~」と題した論文であり、『運輸と経済』70巻8号に掲載された。この論文では、「基本法」の可能性に着目し、「基本法→個別法」および「基本法→個別施策」という流れを創り出すべきことを主張した。また、交通基本法はどのような内容であるべきなのか、交通基本法と地方分権との関係をどのように整理すべきなのかなどについても論じた。改革推進手段としての基本法が「公共空間における公共性の内実に市民的公共性を浸透させるための手段」としても有効であること、しかし、それが地方分権と一定の緊張関係に立つことなどを論じている点が、この論文の学問的意義である。なお、移動権の法的性質について整理した個所については、交通学者をはじめ、多くの方々に引用していただいた。
|