研究課題/領域番号 |
22730116
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嶋田 暁文 九州大学, 法学研究院, 准教授 (00380650)
|
キーワード | 市民的公共性 / 公共空間 / 生活世界の植民地化 / 移動サービス / NPO / 自治体職員 / 働き方 / 地方分権 |
研究概要 |
本研究は、自生的に生じてきた市民の諸活動をめぐる「制度化(法制化)」事例を分析し、「市民社会の論理」と「行政の論理」の相克と浸透可能性を論じた上で、「公共空間における公共性の内実に市民的公共性を浸透させるための条件」を明らかにすることを目的としている。 研究2年目の平成23年度は、大きく分けて、二つの柱で研究を行った。 第1は、「制度化」事例についての論考である。具体的には、移送サービスをめぐる「法制度の壁」の事例を扱った「福祉有償運送をめぐる法的問題点」を公表した。これは、平成22年度に公表した「福祉有償運送をめぐる法政策論的考察~運営協議会問題を中心に~」のエッセンスをコンパクトにまとめつつ、その後の動向、すなわち、市民社会側からの問題提起を受けて平成23年1月23日に国交省に設けられた「運営協議会における合意形成のあり方検討会」の成果と限界について付加した論考である。全体として、「国レベルにおいて、市民的公共性の内実を公共空間に浸透させることがいかに困難であるか」を明らかにしたものと言える。 第2は、「自治体職員の働き方とはどうあるべきか」および「それを実現する上で重要な役割を有する自治体職員研修はどうあるべきか」について論じた論考である。『分権時代における自治体職員の働き方』、「仕事に自らの銘を刻むために~研修の意義~」、「(座談会)自治体職員の研修の現状と課題」、「大阪ダブル選挙の結果をどう受け止めるべきか?」がそれである。当該トピックスは、当初の研究計画にはなかったものであるが、研究を進める中で、(1)市民的公共性の内実を公共空間に浸透させる上で(国レベルではなく)自治体レベルが有効であること、(2)そこで働く自治体職員の姿勢と能力こそが浸透可能性を決定的に左右することを痛感したため、新たに検討トピックスとしたものである。いずれの論考も、新たな事実の発掘や体系的な問題整理を行っている点で有意義な論考になっていると考える。なお、いずれの論考も自治体職員の方々に広く読まれた結果、社会的効果を伴うことになった点も付言しておきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1に、前年度からの積み残しである福岡市の屋台問題に関する論考について、事態の流動化(制度見直しの流れ)を受けて、公刊の延期および内容の見直しを余儀なくされることになったためである。第2に、当初、市民バンク制度についての事例研究も行う予定であったが、その後、当該論点をめぐっては多くの論考がすでに刊行されていることが判明し、方向修正を余儀なくされたためである。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に、福岡市の屋台問題をめぐっては、ようやく福岡市の解決方針が固まりつつあるので、それを受けて、論考を書き直し、できるだけ早めに公刊したいと考えている。 第2に、市民バンク制度の事例に代えて、神戸市西区竹の台における住民の自治的活動とそれをめぐる行政の対応についての事例を取り上げ、年内をめどに論考にまとめたいと考えている。 第3に、研究全体の枠組みである理論研究をまとめたいと考えている。具体的には、「生活世界の植民地化」に抗する「生活世界の防衛」から、「生活世界・市民社会と国家との媒介」を通じた「国家への市民社会の論理の注入」への展開を理論的に整理した上で、「国家への市民社会の論理の注入」が「行政の儀式化」を乗り越える上で、必要不可欠であることを主張する論考を来年3月をめどにとりまとめる予定である。
|