今年度は本研究の中心概念である「国民参加型援助」の特徴を同定するための作業に重点を置いた。主な実績は以下の通りである。 1.「ネットワークによるガバナンス」の理論的整理 様々な行為者を行政に参加させるという形態は、多くの行為者を含む「ネットワークによるガバナンス(=統治)」と親和的である。そこで直接的にその用語を用いていないものも含めて「ネットワークによるガバナンス」の理解の深化に重点を置いた。2010年9月にアメリカ政治学会(APSA)に参加して、報告者との意見交換を行ったのはその一例である。APSAの研究会では「ネットワークによるガバナンス」の論者であるゲリー・ストーカー教授より示唆を得た。「ネットワークによるガバナンス」とは過程(プロセス)に注目した議論であり、他の形態のガバナンス(例えば、ピラミッド型の官僚組織を用いる伝統的な統治)でも政策結果には違いがない可能性があるという教授の主張は衝撃的ではあったが、克服すべきライバル理論としての意味を持つと考える。 2.他の政策領域における「参加」の特徴の解明 1.の作業と同時並行的に、援助における国民参加・住民参加の現況についての文献を収集した。「国民参加型援助」の担い手として日本の非政府組織(NGO)に焦点が当てられることは多い。しかしながら、NGOは利害関係者(ステイクホールダー)であり、日本国民全体の声を反映していないという視点もある。「参加」は手段なのかそれ自体が目的なのか、こうした問いも次年度の研究を行う上で考えるべきものである。
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