本年度は「国民参加型援助」の結果を同定するための作業に重きを置いた。主な実績は以下の通りである。 1.直接参加と政策支持の関係について:ネットワークを援助行政に用いるアウトプットの検証 参加型開発を論じた研究は環境整備や都市計画を対象としたものが多いが、こうした政策領域で参加が言及されることが、先進国を分析した先行研究でも多い。オランダにおけるネットワークを分析したKlijn and Koppenjan(2000)が良い例であろう。彼らによるオランダのBijlmer市の事例研究では人々の満足の度合いが成功のメルクマールとされている。実際にNGOが実施する援助の割合が高い国では援助に対する支持が高いという示唆が得られた。 また援助に参加すると言った場合、参加するのは援助供与国の国民に限られない。被供与国の国民も参加をし得る。日本の援助機関が関係した事業に関して、参加型の効果を測定した先行研究を検証した結果、手段としての参加が事業の成否に関係することが明らかとなった。 2.間接参加と政策支持の関係について:民主性と効率性の対立に関する理論的整理 本研究では、日本国民がNGOを経由する形で援助行政に参加することがどんな影響を及ぼすかについても、分析を行ってきた。その作業のために必要となる、民主性と効率性の対立に関する整理を行った。 参加のコストがかさむので参加をしないという選択を国民がした場合、民主性という点では「悪い」ことかも知れないが、効率性を考えれば望ましいこともある。「ネットワークによるガバナンス」の議論は民主主義理論と対話をすべきであるという批判も存在する次第である(Dryzek 2008)。 「ネットワークによるガバナンス」がアウトプットを超えてこうしたアウトカム(特に政治過程の変化)にどんな影響を及ぼすのか、本研究では十分に実証できなかったが、今後の研究課題となるであろう。
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