本年度は、冷戦初期から中期(1940年代後半、1950年代後半)に至る過程の中で、西側同盟および西側諸国の国内を統合・管理する文化的基礎に焦点を当てた。以下の論考では、英国外交史の観点から、英国の文化広報政策を考察した。第一に、「東欧の共産主義と英国の文化的プロパガンダ」においては、冷戦が文化的伝統や国家の歴史という「過去の解釈」、より良い生活の質を保証するような「未来への期待」をめぐる国民や陣営の支持を獲得する争いであったことを明らかにした。また、文化的プロパガンダを通して国家が国民の思考形態を規律することが要請された時代としての冷戦像を描き出した。 第二に、「現実主義の英ソ文化交流史」では、ジュネーヴ首脳会議(1955年)以降の東西文化交流に焦点を当て、西側諸国とソ連の間の文化交流における政治力学を考察した。また、英ソ文化交流に関しては、英国側が「歪曲」された英国・西側世界に関する情報を修正し、ソ連国民に「真実」を知らしめるという「啓蒙」の文化交流を重視していたのに対して、ソ連側は大規模文化イベントの開催により、ソ連の「高級文化」で英国民を魅了する「スペクタクル」の文化交流を重視していたことを、明らかにした。 これらの点と、その背後にある思考枠組みを明らかにすることは、権力政治に偏重した冷戦史でも単なる文化交流史でもない、文化的パワーの視座に立った冷戦史観を可能にするだろう。これらの研究を基盤に、次年度以降は同盟の文化的基盤について更なる実証研究を行う。
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