近年の欧州史研究によって、欧州統合やNATO形成を促した経済的要因、政治軍事的要因の重要性が明らかにされている。しかし、軍事同盟の形成・機構化と欧州統合との機能分担が進む過程で、社会文化要因がいかなる影響力をもったのかという観点については研究上の空白となっている。 欧州統合や同盟機構化に関する社会文化要因を検討した研究は、欧州審議会(CoE)の設立史や関係団体の社会思想史に単純化さている。このような状況に対し、本研究は国家機関の広報文化活動、情報活動、民間団体との協力関係の実態解明、民間圧力団体の各種交流事業の影響分析を通して、戦後の欧州統合プロセス、軍事同盟の形成・機構化とその機能分担を社会文化的側面から検討することにより、戦後欧州史を再検討することが課題であった。 本年度は、戦後欧州で協議された欧州統合構想を社会思想史・外交史的観点から考察した。第一に「ヨーロッパ運動」と呼ばれる初期の統合構想の確認と、欧州の民間圧力団体の活動とその影響力を、40年代を中心に検討した。第二に同時に、同活動が(米国を含め)政府広報活動と情報機関の深い関与の下に進められたことを明らかにした。 第二の局面では、上記の分析を通して行われる欧州統合の実態解明を基に、西側同盟体制がNATOを中心に構築されていく過程に米欧の民間圧力団体が深く関与した実態の解明を、50年代を中心に行った。特に米欧各国で影響力を持つエリート集団や民間圧力団体に焦点を当て、文化的自由会議等の民間圧力団体の役割を検討し、<国家―民間圧力団体>の密接な協力関係を分析することで、地域秩序を構築する社会アクターの影響を分析し、下からの統合推進・同盟形成要因を解明した。
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