本研究は、東アジア地域主義における国家と市民社会の紐帯をトラック別に分析することを企図し、トラックI(政府間ルート)、トラックII(半官半民ルート)、トラックIII(民間ルート)を相互比較することによって、東アジア地域主義における国家と市民社会の様態を詳らかとすることを趣旨としている。研究初年度にあたる本年は、研究設計の全体像を構築すると共に((1))、トラックIとトラックIIの考察((2))に力を注いだ。とりわけ基礎文献と史資料を収集し、それを検証して地域主義におけるトラックIとトラックIIの関係性の考察を行なった。 (1)基礎文献の収集については、とくに英語圏における地域主義研究の先行研究についての整理と概括を行なった。この際に注視したのが、東アジア地域主義の研究史上の位置付けである。特徴的な点は、1990年代においては専ら国家間関係に着眼していた地域主義研究が、2000年代以降、非国家主体とりわけ市民社会主体に位相を移して展開されるようになったことである。またこれと併せてASEANや加盟国政府等のトラックIの諸機関、ASEAN-ISIS等のトラックIIの諸機関において、史資料の収集を行なった。 (2)上記の研究史上の位置づけから、地域主義と市民社会の関係がトラックIおよびトラックIIにおいてどのように定義され、かかる位置づけがどのように変容して来たのかを考察した。この検証により、トラックIおよびIIにおいては地域主義を前提とした上で市民社会論を捉える傾向が極めて強く、トラックIIIとの間に理念上の溝が存在することが確認された。すなわち、トラックI・II・IIIにおける地域主義と市民社会の諸言説は、一般に考えられているような「国家 対 市民社会」といった対置ではなく、市民社会の諸規範を受入れた上でのその定位の差異として展開されている。 なお本年度はとくに(1)の成果を複数の研究誌に公表し、また国際会議での報告を行なった。
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