民族主義と地域主義の相互作用は地域統合論の重要な一部である。特に、北東と東南アジアでは、国民国家の政治的正当性を高めることができる民族主義は東アジアの地域協力に大きな影響を与えてきた。本研究は地域協力と統合プロセスにおける民族主義の政治化に焦点を絞り、ヨーロッパと東アジアの経験を比較することを通じて、理論面と実証面から比較地域統合論の構築に貢献することを目的としている。 今年度の研究は、先行文献の把握、世論調査のデータ収集、フィールドワークの準備と遂行に集中した。具体的には、(1)香港中文大学や上海図書館、シンガポール国立大学などの研究機構において先行研究と関連資料を収集し、ヨーロッパと東アジアにおける民族主義と地域主義の全体像を考察した上、理論的なフレームワークの構築を試みた。(2)大型世論調査のEurobarometerとAsiabarometerのデータを収集・整理し、両地域における民族主義と地域主義の実態に関して初歩的な分析を行った。(3)事例研究に関しては、ヨーロッパと東アジアでのフィールドワークの準備を行い、その一部を年度内に実施した。 本年度の成果としては、ワシントンに開催されたアメリカ政治学会(APAS)年会と札幌に開かれた日本国際政治学会の研究大会で最新の研究を発表したと同時に、多くの研究者との交流ができた。本研究の理論的なフレームワークとして、「国家と地域統合:東アジアとヨーロッパの比較から」を共著論文の形で出版した。また、比較地域統合論の視点から、北東と東南アジアにおける地域協力・統合のリーダーシップについての論文も発表された。
|