本研究は、タイミング(時間・時期)が重要となる経済的行為にあたって個人がどのような意思決定をするのかという問題について、実験経済学的なアプローチで調べている。その意思決定のモデルで重要な役割を果たすのが、時間選好という概念である。たとえば、貯蓄という経済的行為には、現在の消費をあきらめ、その代わり将来に備えるという動機がある。このような意思決定にあたって、現在と将来とを秤にかけるのが時間選好である。 より専門的には、本研究では、時間選好の推定にあたって非線形な利得関数(効用関数)を前提とすることで、時間割引関数の特性を詳しく調べている。研究代表者は、ノンパラメトリックな(特定の数式モデルに依存しない)時間選好の推定方法を考案・提唱しており、その推定方法の特長をいかして、時間割引関数が逆Sカーブになることを確認している。 効用関数の形状を特定化しないまま時間割引関数の推定を行えたのは大きな利点であったが、それでもリスク選好については期待効用仮説に依拠して推定を行なっていた。そこで、平成23年度および平成24年度では時間割引関数の凹性(concavity)を直接観察するために新しい実験デザインを考案した。賞金もリスクも一定に保ちつつ、タイミングだけを独立に変化させることが新しく、既存研究では不可能だった。 この実験の結果を Journal of Behavior Economics and Finance に公刊した。時間割引関数の局所的な凹性を示せたことは、逆S字カーブとそれが意味する「未来バイアス」の傍証となる重要な結果である。 さらにひきつづき次のことを考察した:未来バイアスは個人の意思決定でみられる認知または行動の歪みであるが、この歪みがもたらす経済的な帰結について理論的に整理した。
|