Gul and Pesendorfer(2001)の先駆的論文以来、動学的非整合性などの異時点間選択の問題が「誘惑と自制モデル」を用いて説明されるようになってきた。しかし、このモデルの前提となる機会集合上の選好は複数の効用関数表現を持つことが知られており、モデルを異時点間選択に応用する上で問題を含むことが指摘されていた。本研究課題の目的は、従来のモデルを選択対応と呼ばれるデータを含むように拡張することで、この問題点を解決できることを示し、さらにこの拡張モデルによって、既存研究では説明できなかった誘惑と自制の下での自然な選択行動を説明することである。23年度は、22年度に引き続き、Boston UniversityのJawwad Noor氏と共同研究を行い、期待された結果を示すことができた。上記のような研究目的の達成に加え、このモデルを使うことにより、これまでに知られている多くの実験結果(顕示選好の弱公理に対する反例、アレの反例、確実性効果、異時点間の選好逆転、現在バイアス、また時間とリスクの相互作用に関する実験結果など)を説明できるという利点と、モデルの公理的基礎を与えたことにより、モデルの実験や実証可能性を保証し、理論のさらなる発展を期待できることも示された。研究成果はワーキングペーパーの形にすでにまとめられており、現在、投稿に備え、改訂作業を行っているところである。また国内外の研究会や学会などで関連研究の報告を行い、研究成果のアピールや、今後の研究に役立つ貴重なコメントを得ることができた。
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