本プロジェクトでは、世帯の不均一性と金融市場の不完全性をあわせ持つ環境での、国民皆保険の公的供給がもたらす影響を調査した。 標準的な国民皆保険制度を未導入の経済と、導入済みの経済とを比較した。資産と民間保険の購入の両方で、明らかなクラウディングアウト効果が認められた。また再分配効果は、若年層より高齢者層により多く、富裕層より貧困層により多く、というように、富よりむしろ社会保障において見受けられた。一括税による(歪みのない)資金調達と比較することによって、労働供給、さらに民間保険の購入、資産保有を減少させる国民皆保険の給与税による資金調達で起きる歪みを明らかにした。 給与税の歪みによる損失は、国民皆保険の供給において、給与税からの資金調達方法と一括税からの資金調達方法との間で福祉ギャップを生む。より高い保証率の国民皆保険政策はリスク・シェアリングの面では優れているが、その費用を賄うためにより厳しい税率を課すことが必要になる。つまり、リスク・シェアリングと税との間でトレードオフの関係が存在する。高い保証率では逆U字型の福祉パターンが確認された。国民皆保険による支出保証率が50%を超えると、歪みによる損失の増加が、福祉による利益の増加を様々な想定ケースで上回ることがわかった。このことは、税の歪みを考慮するとOECD加盟国の多くの国では、保証率(平均約70%)が高すぎるのかもしれないということを示している。
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