本研究の目的は、複数の個人が集団を形成し、互いにコミュニケーションをとりながら到達した意思決定がどのような特徴を持つかを、実験を通じて経済学的に解明することである。先行研究で一般的に観察されている「集団の意思決定は個人の意思決定と比べてより経済理論と整合的である」という結果を背景にして、本研究では特に「集団形成による正の相乗効果創出の原因解明」「集団行動の経験の持続性の検証」に焦点を絞り検証を行う。 本年度は、昨年度に行っていたRapoport and Boebel (1992)で用いられているゲームを使った実験のデータ分析を行った。このゲームは、O’Neillゲームより複雑なゲームであり、Rapoport and Boebel (1992)の実験結果でも、個人の行動はナッシュ均衡から大きく外れているという結果になっている。このゲームを集団がプレーした時に、ナッシュ均衡と整合的な行動がとれるのかを検証するのが本実験の目的である。実験の結果、集団と個人とではその意思決定に違いは見られなかった。 年度途中からは、理論分析の必要性が出てきたため、これを行った。具体的には集団内で意思決定に至るまでにどのような交渉プロセスを経ているのか問題である。経済学で考えられている一般的な非協力交渉理論は、利得(もしくはパイの配分)に関する交渉に焦点を当てているが、このほかにも行動に関する交渉プロセスを考えることができる。相手に対して何かの行動を起こすように要求するなどのケースである。このような交渉問題に関する簡単な理論モデルを作成した。
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