本研究は経済の制度的仕組みや経済政策の望ましさを評価する際に、その制度や政策がもたらす帰結から享受される人々の効用情報のみを考慮する伝統的な厚生経済学が抱える諸問題を克服するために、最終的な帰結の背後に存在する選択機会や選択手続きの情報を効用情報に追加的、あるいは代替的に取り入れて社会厚生を評価する分析的枠組みを構築するものである。 選択機会の内在的価値を社会厚生評価に導入する分析枠組みでは、社会を構成する人々は最終的な帰結と帰結をもたらす機会集合の組を社会状態とする選択肢を評価する。各人の選択肢上の評価情報のみを利用して社会厚生を判断すれば、伝統的な厚生経済学のように依然として情報節約的な評価方法といえるが、本年度の研究では、これまでの研究成果を大幅に改定した。その結果、選択機会の内在的価値を評価する人が社会に存在すれば、各人の選択肢上の評価情報だけでなく、機会集合の情報も利用しながら社会厚生を評価する方法が存在し、もっと多様な評価方法があり得ることを指摘した。 選択手続きの内在的価値を社会厚生評価に導入する分析枠組みでは、主に投票理論において候補者のリストを作成する手続きを内生的に取り入れた社会的選択モデルを構築した。社会的選択は次の二段階の方法で実施される。第一に候補者のリストがリストを作成する人々の意見を集計することによって決定される。第二に投票者の選好を集計することによって、第一段階で決定された候補者のリストから当選者を選択する。本年度の研究では、このモデルにおけるアローの不可能性定理やギバード=サタースウェイト定理を証明する一方、候補者の選挙への戦略的立候補という文脈において、選挙結果が候補者の戦略的行動から不変であるという公理を提案し、安定的な選挙結果がもたらされる可能性を指摘した。
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