本年度は、前年度までの理論結果を受け、公共財の規模を決める問題において、「自発的寄付メカニズム」と「パレート・メカニズム」の比較実験を行う予定であった。しかし、実験デザインを詰めていくと、メカニズムへの参加行動も考慮に入れた場合のパレート・メカニズムでは、参加人数によって公共財供給メカニズムを変える必要が生じ、実験デザインをかなり複雑にせざるを得なくなった。そこで本年度は少し方針を変更して、単純な実験デザインが設計可能であり、理論結果と実験結果との比較が容易な「公共プロジェクトの実施問題」を考察することにした。公共プロジェクトの実施問題とは、ある一定規模の公共財を供給するかどうかを決める問題のことである。この問題で有名なメカニズムは、「自発的寄付メカニズム」と「ピボタル・メカニズム」である。それぞれのメカニズムについては、これまで個別に多くの実験研究がなされてきている。しかし、文献調査をした限りでは、同一の実験環境で両者を比較した研究はこれまでになかった。そのため、一体どちらのメカニズムが優れたパフォーマンスを発揮するのかはまだ明らかにされていない。そこで本年度は、東京工業大学の大和毅彦氏、山邑紘史氏、本間達基氏とともに、公共プロジェクトの実施問題において、自発的寄付メカニズムとピボタル・メカニズムの比較実験を行った。この実験はメカニズムの参加者たちが互いの便益を知り合っている完備情報の環境で行った。主な実験結果は次の通りである。 1.ピボタル・メカニズムよりも自発的寄付メカニズムの方が高い社会的厚生(同一組に属する被験者の合計利得の平均)を実現した。 2.最適な公共プロジェクトの決定が下された割合は、自発的寄付メカニズムよりもピボタル・メカニズムの方が高かった。 これらの結果は、現在国際的学術雑誌への投稿に向けて論文にまとめているところである。
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