研究概要 |
本研究は,社会的選択において選好に関する虚偽の情報を申告するインセンティブを個人に与えない社会的選択規則の設計可能性についての理論研究である.特に,既存の文献で中心的な役割を演じている「耐戦略性」(strategy-proofness)とは異なる,新しいアイデアに基づいた。耐隣接操作性」という概念を提示し,「耐戦略性」との間の理論的関係を明らかにした.「耐隣接操作性」は,真の選好の「隣の」選好しか虚偽申告の候補としない個人を想定した場合の操作不可能性を表現する概念である.したがって,どのような選好も虚偽申告の候補となりえる「耐戦略性」よりも一般には弱い条件である.しかし,個人の持ち得る選好の集合がある性質を満たしている場合には「耐戦略性」と「耐隣接操作性」は論理的には同値な条件であることを示した.そしてそのような場合には真の選好の「隣の」選好を虚偽申告の候補に含むようなどのような操作不可能性の概念も「耐戦略性」と論理的に同値になる.平成23年度は研究成果の報告を海外の学会で行い,そこで得られたコメントを基にして論文の改訂が順調に進んだ.結果として,成果をまとめた2本の論文のうち1本は国際的な学術誌であるSocial Choice and Welfareに掲載が決定した.この点において,インセンティブに関する新たな基準を提示し,耐戦略性との間の理論的関係を明らかにするという目的は達成できた.
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