研究概要 |
今年度はコミュニケーションに関する新しい理論モデルの構築に従事した。具体的には、Battigalli, p. and Dufwenberg, M. (2007)が提示した、他者の期待に反する行為をすることで罪の意識を感じるという人間モデルを改良することで、過去の実験結果を説明することを試みた。これまでに実施した実験結果の主な特徴は、「声」のオプションが付いた独裁者ゲームにおいて、(1)被独裁者が自分の取り分として等分以下を提案したときは独裁者はそれに従う傾向があるものの、(2)等分より多い貪欲な提案をした被独裁者に対しては一切の分け前を与えないというものである。Battigalli, P. and Dufwenberg, M. (2007)のモデルでは、他者の期待に対して何ら規範的制約を課していないため、そのままでは実験結果を説明するようなモデルに応用することはできない。そこで「他者が抱くあるプレイヤーへの期待」を、「そのプレイヤーが従うべきと他者が考える社会規範」と解釈することにより、「他者の期待」に関する妥当性を導入した。現在までに開発した理論モデルでは、被独裁者が取り分として等分以下を提案した場合の独裁者の行動、つまり(1)については説明することに成功したが、等分よりも多い貪欲な提案をされた場合の独裁者の行動、(2)については整合的な結果が得られていない。現在のバージョンでは貪欲な提案をした被独裁者に対しては常に等分を与えるという理論的結果となる。来年度はさらなる改良を行うことで、貪欲な被独裁者に対してある種の罰を与えるような独裁者の行動を説明する。
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