本年度は、所定の研究計画に従い、ヒュームの情念論の先行研究の検討、および家族をめぐる情念に関するヒュームの議論の検討を行い、またそれとは別個に人間理性の限界に関するヒュームの認識についても一定の検討を加えた。 まず第一に、ヒュームの知性論・情念論・道徳論に関わる資料を収集し、分析を行うとともに、アントワープで開催された国際ヒューム学会に参加し、特に本研究に関わるトピックの発表や意見交換等から、先行研究の状況の検討を行った。これに関しては、ヒュームの知性論における情念的側面の重要性や、また彼の社会認識における種々の情念の多様な働きの重要性を指摘する研究動向が注目される。 また以上を踏まえて、『人間本性論』第一巻・第二巻を中心に再度読解を行った。その途上では、人間の合理性の限界に関するヒュームの認識が、観察を行う側の哲学者(研究者)自体に対して特に適用されるべきものではないかという読解を得ることができた。 第二に、家族をめぐる情念に関するヒュームの議論の検討として、本年度は特にヒュームの『道徳・政治・文芸論集』、とりわけ「愛と婚姻について」「複婚制と離婚について」等を中心に考察を行い、そこからヒュームの想定する人間像の「偏り」の一例として、夫・妻・子に対する情念及び利益の存在を考察に組み込むべきことが認識された。 本研究は、ヒュームの「人間の学」の幅広いパースペクティヴの中で、狭小な「経済学的な経済人観」を問い直すことを目的としている。上に示した知性の情念的側面、諸情念の多様な役割、人間理性の限界、近親に寄せる情念の重要性等は、ヒュームの社会認識において想定されている人間像に関する合理性の限界と動機の多面性を指し示す諸要素として重要である。
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