研究課題
イギリス福祉国家の再編過程の歴史的意義を究明するという目的を達成するために、本年度はメジャー政権(1990-1997年)を中心として社会保障・公的医療政策の研究を進めた。社会保障においては、メジャー政権下では就労を福祉受給と関連づけるワークフェアが全面的に実施され、他方でひとり親などの低所得世帯における就労時の所得支援も強化された。これは労働や稼得の問題を基本的には個人の自助努力によって解決すべきだとするサッチャー政権の姿勢から、国家による一定の方向付けと支援が必要であるとする姿勢への転換であると理解することができる。公的医療においては、サッチャー時代に策定された競争促進のための「内部市場」が導入されたが、他方で医療サービスの質的向上を目指すための「患者憲章」が制定された。つまり、後者においてメジャー政権は、従来の「行政管理」から「行政経営」への転換を図ろうとしたといえる。これらの改革では、民営化によって費用対効果を向上させようとしたサッチャリズムとは異なり、民営化後に残された公的部門においては目標の設定とその評価によって質的向上を図るべきだというのである。これは同時期に興隆したニュー・パブリック・マネジメントの議論と関連づけて理解されるべきである。政策の基底にある思想にまで遡り検討すると、市場における問題解決を図ろうとしたサッチャー政権とは異なり、メジャー政権においては一定の役割を国家が果たすべきであるという価値観が看取される。メジャー政権はサッチャリズムの継承者としてのみならず、後のニュー・レイバーに先鞭をつける政策を実施した政権としても評価できることが確認された。
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Discussion Paper No 2011-3, Faculty of Economics, Kyushu University
ページ: 1-19
経済論究(九州大学)
巻: 137 ページ: 37-57