研究課題
イギリス福祉国家の再編過程を基礎づけた経済思想の歴史的意義を究明するために、医療政策と学校教育政策を検討し、公共部門改革におけるメジャー政権の政策思想の特徴を政策展開のなかで浮き彫りにした。福祉国家の再編期とされる1980年代以降の医療や教育など公共サービスの改革では、市場を模した競争原理の導入(いわゆる「準市場」)を創出することによって効率的な資源配分が達成できると考えられてきた。患者獲得をめぐる病院間の競争や生徒獲得をめぐる学校間の競争は、サービスの享受者である国民からの支持を得るために提供者はサービスを自ずと改良するはずである、という思想がその基底にあったということができるだろう。だが、NPMなどのガバナンス論が教えるように、このような「市場」が十全に機能するためには、財源をめぐる競争の強化だけでは不十分であり、情報の非対称性にみられるような市場の不完全性を克服するためには、一定程度国家・政府が情報公開などの環境の整備が欠かせないと考えられるようになった。競争重視の改革を打ち出したサッチャー改革の実施を担ったメジャー政権(1990-97年)は、サッチャー政権の推し進めた政策を継承・強化しながらも、公共サービスの質的向上を企図した『市民憲章』を公表し、この問題に取り組んだ。国民が享受できる「権利」を明示した憲章では、サービス提供者の「成果の公表」などを通して透明性を高めることが謳われた。つまり、市場における競争にすべてをゆだねるのではなく、より積極的に政府が枠組みを形成することによってサービスの質と信頼性を高めることが重要であると考えられていた。この考え方は政権交代後のブレア政権にもより徹底した形で継承されている。すなわち、公共部門の「経営」という視点を取り入れ、ガバナンスを高めることを試みた点に一連の改革におけるメジャー政権の特徴を見出すことができる。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Discussion Paper (Faculty of Economics, Kyushu University)
巻: 2013-1 ページ: 1-13