本研究の目的は、カール・ポランニーの主著『大転換』(初版、1944年)の知的・思想的な源泉を明らかにすることである。本研究では、カール・ポランニー政治経済研究所が保管する未公刊資料が公開されて以降の、アーカイブ研究の進展に象徴される国際的なポランニー研究の成果を吸収したうえで、『大転換』以前のポランニーの社会哲学や『大転換』以降の経済制度分析や経済社会学の展開、そして未完の構想や企画の関連性をも考察し、ポランニー思想の全体像を明らかにするよう努める。カール・ポランニーについての著書の刊行(23年度)と、未邦訳の重要な文献の翻訳書の刊行(24年度)を実施する計画である。 平成22年度は、第一に、1920年代のポランニー像の把握に努め、草稿「ビヒモス」にみられるポランニーの倫理観や社会科学の課題の認識、および、「自由について」(1927年頃の講演原稿)における社会的自由と透明性の論点を検討した。第二に、ウィーンにおける1920年代のポランニーの自由論や機能的社会主義モデルが1930年代以降どのように変化したのか、明らかにするよう努めた。世界経済危機とファシズムの台頭という時代のなかで、協調組合主義的資本主義への制度変化として市場社会の世界的な変容をリアル・タイムで分析するようになったポランニーが、共同体と社会の概念的区別を経て、『大転換』の制度主義的方法につながる思考様式を獲得した過程について、執筆した(著者の草稿)。第三に、カール・ポランニー政治経済学研究所の助力を得ながら、ポランニー論文集の刊行に向けて企画を進めた。
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