第一次世界大戦、ロシア革命、1930年代の世界恐慌、ファシズム、ニューディール、福祉国家の誕生といった20世紀前半の激動の時代を<大転換>と名づけたポランニーの思想は、これまで経済人類学者や市場原理主義批判者として部分的に受容されてきた。だが、ポランニーの自由観や社会観や経済観、時代についての見解は、主著『大転換』や共編著『初期帝国における交易と市場』、遺稿集『ダホメと奴隷交易(邦訳は経済と文明)』(1966)および『人間の経済』などの公刊されたテキストを個別に検討するだけでは把握するのが困難であり、1920年代から最晩年までの多数の草稿や講演原稿、手紙やメモで表現されている思想展開をていねいに辿ってはじめて見えてくる。 本年度の研究業績は2つの柱から成る。第1は、昨年度の研究業績『カール・ポランニー:市場社会・民主主義・人間の自由』の公表と研究会・学会でのさまざまな評価やコメントを受け止めるとともに、1920年から最晩年に至る「責任を引き受けることを通しての自由」というポランニー独自の自由論の展開と、彼の経済学との分かちがたい結びつきについて、①民主主義をめぐる経済的自由主義との対抗軸、②倫理と科学の関係、という2つの問題圏から考察を深めた。 第2に、本年度は、共編訳『市場社会と人間の自由:社会哲学論選』は社会哲学的な未邦訳論考を編集し、訳者解説「カール・ポランニーの市場社会批判と社会哲学」を付した。
|