本年度は、とくにヒュームの国教論、意見(Opinion)論についての資料調査と論文執筆に集中し、現在、上記二論文を学会誌に投稿中である。前者は、ヒュームが『イングランド史』でおこなった国教論を、彼の啓蒙思想の一部をなす宗教批判と統一的に理解する試みであり、後者は『イングランド史』におけるヒュームの歴史叙述において「意見」が果たす役割を分析することで、彼の啓蒙思想がナイーブな進歩史観と一線を画していることを明らかにするものである。また、ヒュームの人間本性分析の中心をなす想像力についての論文執筆のため、2010年8月には英国スコットランドのグラスゴー大学において約1カ月にわたる調査・研究をおこない、同大学のクリストファー・ベリー教授と、本研究課題全体にわたって意見交換をする機会に恵まれた。当該論文は、全文査読審査を経て、2011年7月にエジンバラで開催される第38回国際ヒューム・コンファレンスにおいて報告予定である。 それ以外の研究実績としては、2010年10月23日に神奈川大学で開催された社会思想史学会第35回大会において、慶應義塾大学の坂本達哉教授による報告「いわゆる「初期覚え書き」草稿とヒューム経済思想の形成」に対するコメンテーターを務め、2011年3月28日には京都大学で開催された日本イギリス哲学会第35回研究大会におけるシンポジウム「いま、なぜヒュームか」において、社会思想史研究の立場から「ヒュームの懐疑主義的啓蒙」という論題で報告をした。前者のコメントでは、ヒュームの伝記的事実と思想形成とを概観することで、いつごろ、いかなる思想にヒュームが接した(と推定される)かを再検討する機会に恵まれた。また後者は、近年の英語圏における多様な啓蒙思想研究を踏まえつつ、本研究の基底をなす「啓蒙思想家としてのヒューム」像について概説的な報告を行った。
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