本年度は、比較的に簡潔にモデル化できる状況下での自己共分散と自己相関の推定法の開発、その他の関連研究を行った。パネルデータを使用して個人所得などの経済変数がどのように時間を通じて変化しているかを調べることは計量経済学の重要な課題である。自己共分散や自己相関は動学分析のための基本的なツールである。しかし、パネルデータを用いた自己共分散などの推定は、時系列解析の単純な応用ではできない。本年度の研究では、個人効果と時間効果を含めたモデルを考え、自己共分散の推定法を開発した。個人効果とは個人ごとに変数の水準が異なる状況をモデル化したものであり、時間効果とは、経済全体に影響を与える景気などのマクロショックなどの、すべての個人に同じ影響を与えるが時間を通じて変化する要因をモデル化したものである。研究の主な貢献は、個人効果や時間効果からくるバイアスを理論的に導出し、その修正法を提唱したことである。また、トレンドが各個人ごとに異なる場合に自己共分散や自己相関を推定する方法を開発した。例えば、経済成長に伴って、各個人の所得は年々伸びているものの、その伸び率が個人ごとに異なる場合を考えている。やはり主な貢献は、推定のバイアスの理論的な導出とその修正法の開発である。これらの研究によって、いくつかの現実的な状況での経済変数の動学分析に有用な統計ツールの開発ができた。また、本研究の最終目的である一般的な状況での自己共分散と自己相関の推定法の開発にも有用な理論的知見を得ることができた。また個人効果が存在する場合においては、推定法の有効性についての研究も行い、既存の方法で自己共分散を効率的に推定できる状況を明らかにした。他にも関連する研究として、パネルデータを使用して無限次元自己回帰モデルの推定法の開発を行った。
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