研究課題/領域番号 |
22730176
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥井 亮 京都大学, 経済研究所, 准教授 (20563480)
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キーワード | パネルデータ / 動学パネルデータ分析 / 計量経済学 / 自己共分散 / 自己相関 / 推定 / 時系列解析 |
研究概要 |
本年度は、ファクター構造をもつパネルデータにおいて、自己共分散や自己相関を推定したときに、どのようなバイアスが発生するかについて考察し、また関連研究として、ファクター構造をもつパネルデータにおける漸近効率性の研究、ならびに、無限次元自己回帰モデルの推定法の研究を行った。 パネルデータを使用して個人所得などの経済変数がどのように時間を通じて変化しているかを調べることは計量経済学の重要な課題である。また自己共分散や自己相関は動学分析のための基本的なツールである。しかし、パネルデータにおいては、個人間の異質性や経済全体に影響を与えるマクロショックの影響を取り除くことができるのが利点であるが、その利点を活かして自己共分散などを推定するためには、時系列分析の単純な応用ではできない。ファクター構造は、そうした異質性やマクロショックの、かなり一般的なモデルであり、そのモデルにおける自己共分散や自己相関の推定を考えることは、経済変数の動学を分析する上で重要である。本年度の研究により、いかにしてバイアスのない自己共分散あるいは自己相関推定量を構築するか、またその理論的性質をいかにして示すかについての見通しを立てることができ、次年度に研究に完結させる十分な準備が整ったといえる。 またファクター構造のあるパネルデータモデルにおける漸近効率性の研究を行い、効率限界の導出に成功した。またその導出には、いくつか理論的観点から興味深い数学上の問題があり、その点についても整理することができた。さらに、無限次元自己回帰モデルの推定の研究も行った。これは、自己相関などと同じく、動学構造に強い制約をおくことなしに動学の分析を可能とする方法であり、有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究により、ファクター構造をもつパネルデータにおける通常の自己共分散のバイアス修正法の開発やその理論的あるいはシミュレーション上での正当化を研究するための見通しがついた。よって、当初の研究計画を完成することが十分に可能であると思われる。また、並行していた進めていた、漸近効率性に関する研究や、無限次元自己回帰モデルの推定の研究も、次年度には学術雑誌に投稿できる見込みとなった。よって、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ファクター構造の入ったパネルデータにおける、自己共分散や自己相関のバイアス修正済み推定量の性質を、理論とコンピューターシミュレーションの両者から調べることを目的とする。理論研究ならびにシミュレーション研究の両者とも、これまで進めてきた、より単純な場合の結果を拡張する形で可能であろうという見通しがたっており、そのように進めて行く予定である。さらに漸近効率性に関する研究から、提唱するバイアス修正推定量がある状況のもとで有効な推定量であるのではないか、という予想を立てることができたので、その点も考察したい。またこれまでの研究結果をまとめて学術雑誌への投稿も行いたい。
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