研究課題/領域番号 |
22730179
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加藤 賢悟 広島大学, 大学院・理学研究科, 助教 (50549780)
|
キーワード | 計量経済学 / 分位点回帰 |
研究概要 |
University of IowaのAntonio Galvao教授とCity University LondonのGabriel Montes-Rojas教授とともに、固定効果分位点回帰推定量の漸近的性質に関する研究を論文にまとめ、Journal of Econometrics誌に投稿した。本質的な改訂のあと、同誌に受理された。また、Antonio Galvao教授とともに、固定効果をもつパネル分位点回帰モデルにたいする、fixed effects smoothed quantile regression(FE-SQR)estimatorなる推定量の漸近的な性質を引き続き研究した。今回、昨年度と比較して、時間軸に関するdynamicsを許容するように結果を拡張した。この拡張は弱従属過程に対する、新しいemplrical process inequalityを開発する必要があったことなど、技術的な困難が伴うものであった。FE-SQR推定量の漸近理論をまとめた論文は、Journal of Econometrics誌に投稿され、現在2回目の改訂中である。以上の結果は、パネルデータに対する分位点回帰法の基本的な結果となりうるものであり、その重要性が認められる。 以上の昨年度に引き続く研究のほかに、共変量がランダムな関数で与えられる場合の分位点回帰法に関する研究を進めた。パネルデータ(経時測定データ)において、各個体に対するmeasurementの回数が多いとき、各個体に対する時系列データはあたかも連続時間の確率過程からの離散観測値とみなせる。いま、従属変数はスカラーで与えられ、共変量がランダムな関数で与えられるとしよう。このとき、線形分位点回帰の自然な拡張として、線形汎関数分位点回帰モデルが得られる。今回、主成分分析に基づく、係数関数・条件付分位点関数の推定を考察し、推定量の(ミニマクスな意味での)シャープな収束レート導出した。また、考察する推定法を実装するには、cut-off levelなるパラメータを決める必要があるが丸その選択規準をいくつか考案し、シミュレーション実験により提案する選択規準の経験的な良さを評価した。関数分位点回帰は、例えば、成長データの解析に有効であり、応用研究はいくつかあるものの、理論的な研究は少なかった。今回の研究はそのギャップを埋めるものである。なお、以上の結果をまとめた論文はarXivサイトにアップロード済みである(arXiv:1202:4850).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、「研究の目的」に記した、固定効果分位点回帰推定量の漸近的な性質の研究には目途がつき、すでにfield top journalであるJournal of Econometrics誌に掲載が決定したこと、また、FE-SQR推定量の漸近理論に関しても、ある程度満足のいく結果が得られ、Journal of Econometrics誌にrevise and resubmitとなっていることを考えると、概ね順調に研究が進んでいるといえる。また、平成23年度は米国・MITに長期滞在し、同地ですぐれた研究上のコメント刺激を受けることができたことも、研究の進展に役立った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続いて、共同研究者と連絡を取って研究をすすめる。また、いくつかの国際学会に参加し、コメントを受けることで、論文をpolishすることを目指す。研究課題に記した、パネル分位点回帰モデルに対するブートストラップ法の妥当性を理論的に考察することは、技術的にかなり困難がともなうことが予想される。そもそも、incidental parameters problemがある下で、ブートストラップ法がどのような条件のもとで、またどのような意味で働くかあまり明確になっていないようである。そこで、より解析が容易なパネルモデルに対して、ブートストラップ法の性質を明らかにすることをまずすすめる。
|