本研究は,実証分析を行う際に有益な手法の開発,統一的に分析できかつ容易に実行可能なアルゴリズムの提供,経済分析への応用を目的とする. 偏因果速度が0かどうかを検定する検定統計量として,新しい統計量を提案し,その計算アルゴリズムを作成しシミュレーションを行い,前年度までに提案していた検定統計量との比較を行った.低周波で偏因果速度の推定精度がよくなかったが,サンプル数を増やすことで精度がよくなることがシミュレーションにより明らかになった.モデルは三段階で推定されるが,初期値である二段階目での値と,最終的な推定結果である三段階後の結果の比較分析を行った.また,新しい検定統計量に基づき,アメリカの金融データを分析し,サンプル期間の前半と後半で因果の構造が変わっていることが明らかになった.結果の一部については,12月に東北大学で行われた国際シンポジウムで報告し,ディスカッションペーパーの作成を行った. また,日本の財政データを用いて,TAR/MTARモデルによる歳入・歳出間の因果性分析を行った. GDP変数以外にも,名目変数,GDPデフレータによる実質変数,消費者物価指数による実質変数,企業物価指数による実質変数を用いて同様の分析を行った.TAR/MTARモデルにおいて閾値を推定しても,基本的には歳入・歳出間の因果性が検出されなかった.結果の一部については,2013年8月にSingapore Economic Review Conference 2013で,2013年9月に日本経済学会秋季大会で報告した.
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