本年度は主に、前年度から持ち越しとなった研究の完成と、成果の学会報告に充てた。主なトピックは、前年度から続く動学的なパネル離散選択モデルの、より頑健な推定に関する研究である。個人・企業を長期観測したパネルデータにおいては、彼らが特定の選択肢を選び続ける傾向、状態依存(state dependence)がみられる。例えば、昨年失業状態にあるほど今年失業している確率が高い、先週あるブランドを選択した消費者は今週も同じブランドを選ぶ、などである。この観測の背後にあるメカニズムを説明する仮説として、structural state dependenceとunobserved heterogeneityがある。前者は、前期の状態・選択がまさに今期の経済主体の利得や能力水準に作用し、その結果今季の選択に影響を与えると考える。一方後者は、状態依存は観測できない個人属性による、異時点間の見せかけの相関にすぎないとする。二つのメカニズムの識別問題は古くから今に至るまで、パネルデータ計量経済学の重要なテーマとなっている。本研究は、従来から用いられている方法よりも計算負荷の少ない、一般化されたアプローチを示すものである。 上記の成果を所属大学院のディスカッションペーパー(“Nonlinear simultaneous equations approach for panel Markov dynamic probit models with unrestricted error covariance”、単著)にまとめ、またthe 2013 Again Meeting of Econometric Society(シンガポール国立大学)の一般セッション、そして日本経済学会2013年度秋季大会(神奈川大学)の特別セッションで報告を行った。これらの発表に対し得られた質問・コメントに基づき、分析の改善を行った。
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