本研究は非製造業の中でも特にサービス産業の生産技術の構造を明らかにし、計測することを目的とする。サービス産業の生産性は(1)データ(特に資本ストック)が十分に存在しない、(2)業種が多種多様なため既存のモデルの適用が妥当でない業種がある、という問題がある。製造業と比較し、サービス産業の生産性計測のためには、各業種の付加価値の源泉が何であるかを定義し、個別業種の生産性計測モデルを構築し、質の良いデータを用いて統計解析する必要がある。この様な手法Structural Econometrics Modeling (SEM)アプローチと呼ばれる。本年度は、サービス産業の中でも比較的単純な生産構造を持つ美容産業を分析対象とした。数年前から収集している美容院のマイクロデータを観察しながら、まず美容院業の付加価値の定義を行った。その際、需要と供給のバランス構造を組み込んだモデリングを行った。サービス供給者である美容師個人の生産技術の理論モデルと計量モデルを構築し、マイクロデータを用いて統計解析を行った。その結果を"Productivity of Service Providers : Microeconometric Measurement in the Case of Hair Salons"に論文として発表した(2010年10月)。加えて、消費者の来店間隔のデータを用いて統計解析を行い対個人サービス業の顧客来店確率予測のためのモデルを構築した。その結果は"The Effects of Congestion and Skills at a Hair Salon on the Consumer's Revisiting Behavior"にまとめられている(2010年10月)。以上の結果は、理美容業と類似した生産構造を持つ、飲食業、医院、歯科医院などの対個人サービスの生産性計測や需要予測に応用可能である。この様なSEMアプローチで統計解析まで行うためには質の良いマイクロデータが不可欠であり、データ収集も積極的に行ってきた。
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