本研究課題は、サービス産業の生産技術の構造を明らかにし生産性を計測することを目的としている。生産関数は、理論上は企業の生産活動のみを表し数量データを想定するが、推定する際に用いる実現された生産量には、生産活動に加え市場での流通や販売活動を通じて決定される価格情報を含むことより、需要要因が含まれてしまうという問題がある。製造業でも同様の問題が起こるが、一般に生産と消費が同時に起こるサービス産業ではより深刻である。そのため、既存の手法により生産性を計測し、生産性の下降が観察された際、その原因が(1)技術力の後退によるものか、(2)需要の縮小によるものかを識別することができない。そこで本年度は、生産関数分析で得られる企業が直面するショックを供給要因、需要要因、その他の要因に分解する方法を提案した。具体的には、最大生産能力(キャパシティ)と実際の生産量の差と、投入要素の稼働率を用いて分解する。この手法は、通常のデータに加えてキャパシティに関する情報が入手可能で、製造業に近い形態で生産活動を行っているサービス産業の業種に応用可能である。個別の産業に関するモデリングでは、昨年に引き続き運輸業の生産性を計測するために荷主と運送業者それぞれの最適化問題を明示的に考えて費用関数の理論モデル作成を行った。その際、運輸業の生産性と密接な関わりを持つ運送に関わる時間価値の計測を行っている。小売業については、供給サイドの情報のみでなく顧客(需要)の情報が不可欠なため、大規模小売データを収集しより正確な店舗間の競合状態を反映したモデル構築を行っている。
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