最終年度に当たる平成24年度は、引き続き日本人の労働時間およびその他の時間配分がどのような要因にとって規定されているかというテーマを中心に、日本人の働き方に関する研究を多角的に実施した。 第一に、他の先進諸国に比べなぜわが国の労働時間が長いかを労働需要側の見地から検証する分析を行った。わが国は、景気変動に対して他国よりも労働時間の調整が早いとされてきたが、いざというときに労働時間で調整を可能とするためには、平時において従業員に長めの残業をさせておく必要がある(いわゆる「残業の糊代説」)。本研究で、こうした糊代説が長時間労働をもたらしている可能性を検証した結果、過去に雇用を保護する度合いが高かった企業ほど、平時における従業員の労働時間が統計的に見て有意に長くなるとの結果を得た。つまり、日本人の労働時間の長さには、一定の経済合理性が存在することが示唆された。もっとも、一定の合理性があるとはいえ、労働時間が極端に長くなる場合には健康を損ねる可能性もある。そうした観点から、時間外規制の除外が労働時間にもたらす影響について再考したのが第二の研究である。この研究では、時間外規制の適用除外が人々の労働時間の選択に及ぼす影響を分析した。分析の結果、時間外規制が適用除外されている労働者と規制が適用されている労働者は、好況時においては時間当たり賃金・労働時間共に差がないものの、深刻な不況に陥ったリーマンショック以降のデータに限定した場合には、時間外規制が適用除外されている労働者のほうが、有意に労働時間が長くなるという結果を得た。これらの結果は、時間外規制の影響を定量的に検証する場合には、景気循環の影響も加味する必要があることを意味している。第三の分析として、より長期の視点にたち、日本人の余暇時間がこの1920年以降どのように推移してきたかという研究を実施した。
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