本研究では、医療サービスにおける需要と供給の特性をマイクロデータから明らかにした。需要については、人々が自身の健康情報(健診結果など)に接することで、生活習慣病の予防やプライマリケア(軽症段階での受療)に対し、どのような行動の変容が見られるかを解析した。さらに、一定期間での医療費の合計金額、受療一回あたりの医療費という観点からその規模を分析した。供給については、同一の傷病名に対する医療機関での治療成果(転帰)の差異を詳しく考察したほか、医療機関の持つ機能や立地の特性、経営の形態が、医業収支に与える影響についても追加的な考察を行った。 健康情報を受けた医療サービス需要は、被保険者/被扶養者、年齢・性別、職種など社会経済的な要因により有意に異なることを追証し、その影響は、医療費の変容にも、短期的かつ少額ながら、明らかに反映することを示した。医療サービスの供給については、傷病名別の結果、病院機能、立地など質的な指標と、医業収支などの金銭的な指標の関連を考察し、多面的に評価した。 これらの研究を通じて、大規模な個票情報の整理に取り組み、目標としていたデータクリーニングを行うことができた。医療データ(特にレセプトデータ)の持つ特性や、倫理上の取り扱いについても理解を深められた。これらは今後の研究の素地ともなる成果であると捉えている。成果については、国内外の学会発表と論文にまとめた。 本研究分野全体の課題として、(1)需要の背景と供給の背景を対比的に考察する統計や研究が乏しいこと、そして(2)疾患の定義や医療費の範囲といった分析の基本デザインが標準化されていないこと、があげられる。本研究の研究成果を生かし、この2点の課題を解決するための発展的な研究課題に現在取り組んでいる。
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