研究初年度は、既に整備済みであった愛知・三重・岐阜の東海3県における地域産業の従業者データを利用し、まずは三重県を対象とした基礎的分析として、産業構成や地域産業の生産性が相互に作用する多様な成長パターンの地域的差異について要因分析を行った。分析結果より、輸送用機械や電気機械などの産業集積が見られる北勢地域において、地域産業の成長に動学的外部効果が機能している可能性が示唆された。分析は「三重県における地域成長構造の計量分析-シフトシェア回帰アプローチ-」として論文にまとめたうえで国内査読付学術誌に投稿し、掲載が決定した。つぎに輸送用機械をはじめとする製造業の一大集積地である名古屋大都市圏を対象に、産業集積に伴う動学的外部効果と地域産業の持続的な成長との関連を検証するための基礎的分析として、地域産業における成長の空間的関連性を検証した。分析には、地域間の近接性が表現される地理的空間だけでなく、産業間の技術的連関(産業間リンケージ)の近接性が表現される技術的空間も考慮に入れた探索的空間データ分析(Exploratory spatial data analysis)の手法を応用した。特に産業間リンケージの近接性は、産業間の「経済的距離」を測る指標であるAverage propagation lengthを利用することを提案した。分析を通じ、より実際的な成長クラスターを検出する際には、技術的空間を考慮することが重要であることが確認された。分析は"Geographical and Technological Proximity and Regional Industrial Growth : Exploratory Spatial Data Analysis in the Nagoya Metropolitan Area(地理的・技術的近接性と地域産業成長-名古屋大都市圏における探索的空間データ分析-)"として論文にまとめ、国内外の学会にて研究報告と意見交換を行った。本年度の基礎的分析結果を踏まえ、来年度は地域産業の成長を促す具体的な産業集積の形態や生産の競争環境について、計量経済学的手法を用いたより詳細な検証を行う予定である。
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