本研究課題の初年度である平成22年度は交付申請書に基づき、我が国の流通システムを念頭に置き、経済学の論理を用いた基礎的なモデリングを行うことに焦点を置いた。 もともと流通システムの役割を問う研究は、経済学における組織の垂直的な境界に関する議論と密接な関係がある。その1つとして、特定の経済状況下において、企業は流通を担う機能を垂直統合するべきか、あるいは分離するべきかという二者択一の問題を論じる研究がこれまで存在する。類似した財を供給する企業間が価格面で競争する寡占的な状況下では、企業を垂直分離した方が他企業からの戦略的な反応を和らげることで競争を回避できるために、戦略としては望ましいことが先行研究では知られている。しかしながら組織の境界を決定するタイミングが企業間で異なるときは、こうした先行研究の結果とは逆に、企業を予め垂直統合しておくことが、企業にとって競争優位の戦略となることを示すモデルを構築したことが、第1の成果である。この成果は本年度に研究代表者所属機関のディスカッションペーパーとし、さらに国際学術誌へ投稿した。 さらに第2の課題として、移転価格に関する研究を進行させた。一般的に、垂直的に分離された組織間での財の取引は卸価格と呼ばれるが、統合した企業内での部門間の取引価格は移転価格と呼ばれる。企業が組織の境界を決定する際に、特定のコミットメントの行動を取ることで、内部の移転価格の情報を意図的に外部へ伝達することにより、他企業に対する競争優位を保つことが可能となるモデルを現在作成している。こちらの課題は次年度へとつなげる。 また、研究代表者による流通システムに関するこれまでの研究論文が、査読付きの国際学術誌に幾つか掲載・出版がなされた。
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