研究課題
本研究課題の2年目である平成23年度は交付申請書に基づき、経済学の論理を用いた我が国の流通システムを描写するためのモデル構築を継続した。第1に、小売部門を垂直統合した企業内において実質的な卸価格となる、振替価格に関する研究を行った。製造業者がサプライチェーンの調整(coordination)を行う目的で振替価格を手段として用いるモデルはこれまでに様々なものが作られている。本研究では競争的な状況下における、原価基準振替価格設定の役割の分析を行った。潜在的な参入の圧力が存在するとき、全部原価ではなく、直接原価に基づいて振替価格を決定することが、参入を阻止するためのコミットメントとなる状況が存在することをモデルにより示した。また振替価格の決定に関する規制として、独立企業の原則(arm's-length principle)が存在するが、この規制がサプライチェーン内における価格情報を他社にとって観察可能なものにすることにより、企業間が暗黙に共謀する状態を作り出すことを示した。この帰結として、独立企業の原則が課されている時の方がそうでない時と比べ、製品が販売される全ての小売市場で、消費者厚生が悪化することが示された。第2に、国際的な流通システムを想定し、メーカーの承認(authorization)を受けていない商品の並行輸入に関する流通モデルを構築した。商品の情報に関して企業と消費者間で非対称性が存在する状況下では、消費者の嗜好が多様であり、その意味で多数のセグメントに細分化されている時ほど、並行輸入を禁止しない方が、消費者厚生が向上することが示された。これは消費者の嗜好性が強ければ、商品情報の非対称性を解消するために、小売業者は自発的にその情報サービスを提供する誘因を持つためである。以上の具体的な研究成果は「現在までの達成度」に示しているが、今年度は特に研究の進展を得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
平成23年度は、流通システムに関する4本の単著論文が査読付きの国際学術誌に掲載され、加えて所属機関における英文によるワーキングペーパーを単著で4本執筆した。さらに流通・マーケティング分野で世界最大の国際学会で研究報告を行った。以上の客観的な研究成果から、「(1)当初の計画以上に進展している」と判断される。
他の項目に記している通り、本課題は計画に沿った研究の進展が見られている。したがって引き続き、我が国の流通システムの現状を明らかにするために、さらなる経済学の論理に基づいた数量的なモデル構築を行う。今後に得られることが期待される研究成果もこれまでと同様、全て英語を用いて論文を執筆し、査読付の国際学術誌への投稿・掲載を進め、内外へ向けた研究成果の発信を行う。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件)
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