研究概要 |
近年,消費者の環境への選好を考慮したグリーン・マーケットの研究が増加している。そのため,寡占市場においては企業も消費者の選好に注視しつつ,財の環境配慮水準の改善投資や生産量を戦略的に決めなければならない。 一般的に言うと,カルテル行為は消費者の利益と社会厚生を減少させる。しかし,Matsui(1989,IJIO)は,大型の装置型産業においては生産費用削減のためのR&D投資を行ったあとに生産活動を行う場合に,生産カルテルを行う部分結託が社会的に望ましい場合があるという衝撃的な帰結を提示した。このように費用削減型のR&Dモデルにおいて部分結託行為に関する優れた研究成果があるにもかかわらず,環境配慮型R&Dモデルにおいて部分結託が社会的に望ましいかどうか,さらに消費者余剰や企業利潤での観点からの価値判断についての精密な検証はほとんど行われていない。本年度の研究はこの点の解明を主要な目的とし,以下の主要結果を得た。 (1)製品差別化の程度が小さくなく,技術のスピルオーバー効果が大きければ,部分結託は完全非協力の状態より社会的に望ましい.ここで,技術のスピルオーバー効果が小さい(大きい)状況は,「その国の知的財産の保護水準が強い(弱い)」と解釈可能である。よって,寡占企業の作るエコタイプの工業製品に少なくない差異があり,かつ技術知識などの知的財産が適切に保護されていない,あるいは技術それ自体に流出抑止困難な特性があれば,生産カルテルを実施することで社会厚生は高まる。(2)スピルオーバー効果が十分小さければ,製品差別化の程度に関係なく部分結託は社会的に禁止すべきである。技術知識などの知的財産が適切に保護されていたり,技術のそれ自体に流出抑止可能な特性があれば,生産カルテルは社会厚生を低下させるので禁止すべきである。つまり,環境R&Dの社会的影響を考慮した場合でも,標準的な競争政策に沿って競争環境を秩序付けることが望ましい。
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