本年度は主として、昨年度より継続中であった入札談合における入札額のパターンを分析した論文をさらに改訂し、海外の査読付学術誌であるReview of Industrial Organizationに出版した。主な結論は昨年度内に得られたものと変わっていないが、編集者、査読者からの指摘を受けいくつかの側面から統計的分析を追加してより説得力のあるものとした。論文の主張は以下である。1)談合が活発だった時期においては、入札額が0の連続で終わる切りの良い数字になる傾向がある、2)各入札における最低額は他の入札額よりもさらに切りの良い数字になる傾向がある。 また、本年度は入札者の数が少ない市場において入札データの収集を行い、入札行動の傾向を詳細に分析した。特に、その市場において観察された新規参入者に対して、既存の入札者がどのように反応したか、参入の前と後で、落札額、落札回数等のシェアがどのように変化したかに焦点を当てて分析した。 以下の点が明らかになった。1)この市場では、過去の落札回数が入札者間で安定した比率で維持されている、2)新規入札者の参入前後では落札率(予定価格に対する落札額の比率)は変わらない、3)新規入札者の参入後は、新規入札者に対して、金額、回数ともに大きなシェアを与えている。 これらの観察から推察されることは、談合が行われていたならば落札回数の比率を維持するような談合ルールが用いられていること、また、新規参入者に対してソフトに対応しており、新規参入者を談合組織のメンバーとして迎え入れるために、相応のシェアを与えるルールとなったことが推察される。
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